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地下鉄サリン事件のこと -私の「ポケットの中の戦争」- [社会]

平成7年3月20日。10年前の今日。私はこの日を一生忘れないと思う。

その日、偶然にも有休をもらっていた私は、のほほんと自宅で過ごしていた。
午前9時過ぎ。私室のステレオからはTOKYO FMの軽快な音楽が流れていた。と、突然MCが話し出す。「只今、東京の営団地下鉄内に、シンナーのような薬品と思われる匂いが充満し…」それを聞いた私は、「また誰かがシンナーの缶でも落として、中身をぶちまけたかなあ」くらいに思っていた。

そのまま何事もなく、我が家ではお昼を迎えようとしていた。
だが、昼食の用意をしながらつけたテレビニュースの光景に、私は愕然となった。

すっかり見慣れた地下鉄日比谷線の築地駅周辺。
消防車や救急車が止まり、急ごしらえのテントが張られていた。警察官が右往左往し、地下鉄の職員が何か叫んでいる。ヘリコプターからリポーターが中継しているが、その本人にしても何が起きているのかわからないみたいだった。

普段は30分で終わるはずのニュースは、その後もずっと続いた。
画面を見つめるうち、徐々に状況がわかり始めた。「長野で使われたサリンが…」…サリン…毒ガス? どうして東京で? 地下鉄で?

築地には、NTTの第3デバッグセンタ(3デバ)がある。うちの社員も何人か出掛けているはずだった。「これって…やばくない??…」
私は慌てて会社に電話を入れた。出たのは同期のフー子。
「ニュースで観たよ。そっち、大丈夫なの?」
「先輩が聖路加病院に運び込まれたの。今、部長が行ってる。出社した人の中にも具合が悪い人がいっぱいいる」彼女の声の様子からも、社内が騒然としているのは手に取るようにわかった。
「私もすぐ行くね」
「わかった。でも、電車とか止まってるから」
「うん、ありがと」
電話を切ると、お化粧もままならないまま、スーツに着替えて私は自宅を飛び出した。

1時間ほど掛かって、会社に着いた。ビルの前には数台の救急車が止まっている。内心絶句するも、エレベータを使わず、私は階段を駆け上がった。
フロアは閑散としていた。残っているのはほとんどが女子社員で、みんな、次々に掛かってくる電話の応対に追われていた。
私はすぐにフー子を見つけて話しかけた。
「ビルの外に救急車が止まってるけど?」
「あ、あれは違うの。うちもすぐに消防に連絡とったけど、もう出せる救急車はないって。仕方がないから、タクシー使って病院へ行ったの」…ぐは…。

それからは、もう仕事どころじゃなかった。
クライアントへ連絡を取って事情を説明したり、社員のご家族からの電話への応対に忙殺された。「そういえば、お昼、食べてないなあ」空腹だったのを思い出したのは、夜6時をまわった頃だった。

聖路加病院から転院した社員やお友達のお見舞いに行けるようになったのは、この日から3日も経ってからだった。
突然、目が見えなくなった怖さで、ご家族の前で泣いている友人。
頭痛が続き、事件の日からまったく眠れないと訴える後輩。
意識があるのかないのか。ただ無表情のまま、一点を見続けている上司。
「これって戦争じゃん…ひどすぎるよ…」
目の前の惨状に愕然とし、私はただ泣くことしかできなかった。
その後も、なんでもないと思っていた人が、何日も過ぎてから具合が悪くなるということが続き、業務が元通りになったのは、事件の日から2週間以上も経ってからだった。


当時のことを思い出すだけで、今でも涙が出てきます。
当時の職場の友人とは、一部の人たちを除いてすっかり疎遠になってしまいましたが、今でも視力が回復しない人や、頭痛が続いている人などがいるそうです。
また、PTSDで、地下鉄に乗れない人や、エレベータのような密閉された小さな空間に入ると気分が悪くなる人もいます。

この事件を引き起こした新興宗教集団は、アメリカなどでは立派なテロ集団として認知されています。
この新興宗教集団の責任者の糾弾は無論ですが、こんな事件を起こすまでに放置していた国の責任。被害者への救済活動など、今になってもやるべきことはあまりに多く残されています。

平成7年3月20日。10年前の今日。私はこの日を一生忘れないと思います。


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コメント 8

MITURU

本当におそろしい事件でしたね。私は当時、浜町にある事務所に勤めていましたが、業者さんからの電話でこのニュースを知らされました。松本サリン事件の捜査をもっと徹底的にしていれば防げたはずです…。
by MITURU (2005-03-21 11:32) 

kyao

MITURUさん、こんにちは。お久しぶりです。レスをどうもありがとうございます。
長野で同様の事件が起きてはいたものの、私も最初は「東京の地下鉄で」とは思ってもいませんでした。この事件がきっかけでオウム真理教への本格的な調査が始まるわけですが、MITURUさんが仰っているように、「宗教法人」と言うだけでこうも野放しにされるものなのかと、今でも信じられない思いです。
今は単にマスコミが取り上げないと言うだけで、統一教会やヤマギシ会など、同様の新興宗教団体が抱える問題はまだまだ多いはずです。先頃、アーレフ(元オウム真理教)が薬事法違反で逮捕者を出すなど、しっかり取り締まらなければならない点はまだまだあるように思えます。
もう二度と同じような事件を起こさないような土壌を、国民一人ひとりが徹底して作っていかなければならないと思います。
by kyao (2005-03-21 20:03) 

kaz

なぜオウムを存続させたのか、いまだにわかりません。公安が監視していますが、また何かを起こすでしょう・・・。

残念ながらまだまだ犠牲者を出さない限り、予防や救済をしないでしょう。それを立案、執行するのは、政治屋と公僕意識のない役人ですから・・・。
by kaz (2005-03-22 01:52) 

kyao

kazさん、こんにちはー。いつもレスをありがとうございます。
>何かを起こすでしょう
そうかもしれません。また、そうでないかもしれません。でも、ひとつ言えることは、オウム真理教(現アーレフ)の存在そのものが、人々に不安を与えているという事実です。「まだこの日本にオウムが存在している」というだけで、みんなが不安になっていると言うことを、現信者は忘れています(忘れようとしている?)。
現に薬事法違反で捕まった信者がいます。おかしな言い方ですが、こういう人たちが屋内で何かをしていることに対して、安心していられる人がいるでしょうか。いくら信者の人たちが「私たちは粉末オレンジジュースを作っている」と言ったところで、それがどうして炭疽菌でないとわかるのか。そういう不明瞭な部分を残しながら、今でも「私たちはここに住む権利がある」「信仰の自由を行使しているだけ」と主義主張することしかしないから、今でも周辺住民と衝突を繰り返すのです。
彼らの言う「修行」という行為にしても、屋内でコソコソ行うのと、河川敷のような開けたところで行うのとでは、周囲の印象もずいぶん違うと思うのですが…。
>政治屋と公僕意識のない役人
おそらくは、自分たちの家族や友人が被害に遭うか、あるいは自分たちが住んでいるすぐ隣にオウム真理教が引っ越してきて、初めて事の重要さを認識するのではないでしょうか。それまではあくまで人ごとなのです。危機感がなさ過ぎます。
結局、人は私利私欲のために生きるのだろうとは思います。ならば、「明日は我が身」とどうして思えないのでしょうね。私には不思議でなりません。
by kyao (2005-03-22 08:40) 

norinori

私自身は、地下鉄サリン事件をテレビの画面でしか見ていませんが、同じ年に起こった阪神大震災に続いて、とてもショックを受けた覚えがあります。
最近、オウムのことを特集したテレビ番組を見ていたんですが、オウムの施設の中には麻原被告の本がいっぱい並んでいるし、現信者3人(いずれも古参信者)はサリン事件が起こしたことはダメだけど、麻原被告の教え自体は否定していないと言う。1万歩譲っても、そんなの理解できないです。私は教えがいくらすばらしいとしても、10年経った今でも後遺症に苦しんでいるぐらいの犯罪を起こした麻原被告とオウムを許せません。なのに、のうのうと存続しているこの宗教。
>隣にオウム真理教が引っ越してきて、初めて事の重要さを認識するのではないでしょうか
もし仮に自宅の隣りに引っ越してきたとしたら、ゾッとします。そんな状態の方が現にいらっしゃる訳ですから、それを解消する手立てをみんなで考えていかなければならないし、オウムにも求めていかなければなりません。
by norinori (2005-03-22 23:34) 

kyao

norinoriさん、こんにちはー。いくつもレスをどうもありがとうです。(^^)
>サリン事件が起こしたことはダメだけど、麻原被告の教え自体は否定していない
私も同じことを感じます。犯罪者の教えが正しいって、どういうことなのか、まったく理解出来ません。ただの詭弁にしか聞こえないです。荒木広報部長や上祐幹部のように、マスコミですっかり顔が知られてしまった人は、もう教壇と運命をともにしなければならないでしょうが、サリン事件以後も教団を辞めようとしない人や、今でも入信する人がいるというのが信じられません。
信者の寄付で教団が運営されている以上、自分たちが入信することで犯罪に手を貸すことになると言うのに、どうして気が付かないのでしょう。
>自宅の隣りに引っ越してきたとしたら
そう思うのが普通ですよね。テロ組織ですよ、現に。今でも逮捕者が出る始末だし。
言い方がきつくて恐縮ですが、サリン事件などに荷担していない人であっても、同罪だと思っています。サリンやVXといった薬物でなくなった方や、今でも後遺症に悩まされる方がたくさんいるというのに、それに目をつぶって、自分たちの修行に明け暮れるなど…どういうつもりなんだか(怒)。
人々の救済という、宗教本来の目的を忘れた教団など、一刻も早く滅んでほしいと思います。
by kyao (2005-03-23 09:41) 

m-kurata

本当にひどい出来事でしたね・・・・・。
まだ健康を取り戻せない人がいますし、その裁判がまだ続いているという、この不条理!! 世の中には割り切れないことが、あまりにも多すぎます。
1人の力は本当に小さなものですが、何とか世の中が良くなるような方法を考えていきたいと思っております。
このblogを始めたきっかけも似た処があるのですが、いつの間にか趣味の方向に走っていました。(反省) このIT全盛の時代に何か使えるものがあるかもしれませんね。
by m-kurata (2005-04-04 19:11) 

kyao

m-kurataさん、こんにちは。レスをありがとうございました。
>このblogを始めたきっかけも似た処があるのですが、いつの間にか趣味の方向に走っていました。
いえいえ。反省する必要はないと思いますよ。(^^)
人間、シリアスな方向ばかりでは疲れてしまいますよね。どこかに「無駄」とか「余計なもの」とか言う要素があるからこそ、その人が本気で訴えたいものについて、説得力が生まれるのではないかと私は思います。(^^)
m-kurataさんご自身が仰っているように、ひとりひとりの声は小さいかも知れませんが、何かを伝えようとする意志は、きっとブログを読んでくださる人、ひとりひとりに伝わると私は信じています。一緒に頑張りましょうね。(^^)
by kyao (2005-04-04 21:07) 

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